特許庁が公開しているデータから、出願人の名前に「任天堂」を含む特許出願を3,293件集めました。特許出願というのは、発明の中身を書類にまとめて特許庁に出す手続きのことです。いちばん古いものは1976年までさかのぼります。
これを古い順に並べて眺めていて、1999年の1件で手が止まりました。
1999年8月25日に出された「ビデオゲーム装置およびゲームプログラムを記憶した情報記憶媒体」という出願です。要約に書かれていたのは、マウスを動かすとエネルギーが溜まり、ボタンを押すと溜まった量に応じて画面の中の車が走り出す、というゲームの仕組みでした。あわせて「マウスのようなポインティングデバイスをゲームの入力装置として使う場合の、新しい使い方を提供する」という趣旨も明記されています。
2025年6月5日に発売されたNintendo Switch 2では、コントローラのJoy-Con 2を机の上で滑らせて、マウスのように使う操作が話題になりました。1999年8月25日からその発売日まで、25年9か月あります。
1999年の書類に書かれていたこと、書かれていないこと
先に断っておきます。1999年の出願はパソコンのマウスをゲームに使う話であって、Joy-Conを滑らせる仕組みそのものではありません。「Switch 2のマウス操作の特許が1999年にあった」とは言えません。言えるのは、マウスをゲームの操作に使うという同じ発想が、25年前の書類にある、というところまでです。
Switch 2のマウス操作に直接あたる出願は、2024年11月26日に出ています。要約には、画面の中のものを「マウスのセンサ」で動かす第1のモード、「傾きを測るセンサ」で動かす第2のモード、「方向を指示する部分(スティック)」で動かす第3のモードがあり、条件によって切り替わる、と書かれています。
この操作が公式に発表されたのは2025年4月2日でした。2025年1月16日の本体初公開の時点では伏せられています。書類のほうが、発表より4か月早く出ていたことになります。

上の図は、この2件の要約を3つに割って並べたものです。1999年は「マウスを動かす」から「車が走り出す」まで順に進む話で、2024年は3つの動かし方が切り替わる話です。同じ「マウス」という語でも、書かれている中身は別のものになっています。
「マウス」と書かれた出願は、25年の空白をはさんでいる
調べ方を一度だけ説明します。集めた3,293件のうち、1991年以降に出された3,026件には英語の要約が付いています。今回はその全文を検索して機能を探しました。裏を返すと、1991年より前の出願には要約が無く、この方法では中身まで検索できません。
要約に「マウス」と書かれた任天堂の出願は、全部で12件でした。1999年8月25日に1件、2007年8月31日に1件。そこから17年あいて、2024年11月26日から2025年9月30日までに10件が出ています。

図は、この12件を出願日の位置に点で打ったものです。左に2つ、長い空白をはさんで、右端に10個が固まっています。この調べ方で見つかる範囲では、任天堂がこの語を書類に書いたのは四半世紀のあいだに2回だけで、残りはSwitch 2が出る前後の10か月に集中しています。
ほかの機能では、書類と商品の間隔はまちまちだった
同じやり方で、ほかの機能についてもいちばん古い出願を1件ずつ選んでみました。
コントローラが振動する機能は、1996年10月の「コントローラパック」という出願が最初です。コントローラの差し込み口に付けるパックの中に振動源と電池を入れ、ゲーム側から信号が来ると振動して手に伝わる、という内容でした。商品はNINTENDO64の「振動パック」で、1997年4月27日に出ています。差は6か月です。
長いものもあります。2002年5月の出願には、据置のゲーム機がテレビに立体的な画面を出し、携帯ゲーム機の液晶に地図を出して、両方のカーソルが連動する仕組みが書かれています。当時のゲームキューブとゲームボーイアドバンスをつないで遊ぶ形にあたります。持ち歩ける本体をテレビにつなぐという組み合わせが商品の中心に据えられたのは2017年3月3日のNintendo Switchで、14年9か月あいています。
本体を傾けて操作する機能は、2002年8月の出願が最初でした。ゲームのカートリッジにX-Y方向の加速度センサを入れて本体の傾きを検出し、傾け方で声の高さと音量を変えて歌わせる、という内容です。傾ける操作を看板にしたWiiの発売は2006年12月2日で、4年3か月後になります。逆に、本体からコントローラを外す機能は2016年6月の出願が最初で、Switchの発売まで8か月しかありません。取り付けているかどうかに関係なく操作の情報を本体へ送る、という書かれ方をしています。

図は、この5つについて「書類が出た日」と「商品が出た日」を横棒で結んだものです。棒の長さは6か月から25年9か月までばらついていて、マウス操作がいちばん長く伸びています。
出願と商品は、別のもの
はっきり断っておく必要があります。特許を出したことと、その技術が実際の商品に使われていることは、別の話です。1999年の書類に書かれた仕組みがSwitch 2に受け継がれたのかどうかは、書類からは分かりません。この年表が示しているのは、書類が残された日と、商品が出た日の間隔だけです。
それでも、日付そのものは動きません。マウスを滑らせてゲームを遊ぶという発想が、商品が出る25年9か月前の書類にあったことは、データの上で確かめられます。任天堂の出願を古い順にたどっていくと、こういう書類にときどき行き当たります。
日本の特許はJ-PlatPat(特許庁の無料検索)で誰でも調べられます。会社名で検索して、古い順に並べてみると、いま遊んでいるものの下書きが出てくることがあります。
出所とデータの作り方
- 特許の集計|特許庁「特許情報標準データ」「整理標準化データ」(2026年2月28日時点の全件スナップショット)。出願人名に「任天堂」を含む特許出願3,293件を対象にしました。日付はすべて出願日です。
- 書類の中身の検索|上記のうち英語の要約がある3,026件(1991年以降の出願)について、要約と発明の名称の全文を検索しました。1991年より前の出願には要約が無いため、この方法では中身を検索できません。
- 機能ごとの「いちばん古い出願」|検索でひろった候補の要約を1件ずつ読んで選びました。機械的な判定ではありません。実際、語だけで拾うと関係のないものが混ざります(「振動」で拾うといちばん古いのはコントローラではなくバーチャルボーイの光学系の振動でした)。
- Nintendo Switch 2の初公開|任天堂ニュースリリース「『Nintendo Switch 2』を2025年に発売」(2025年1月16日)。
- マウス操作の発表と発売日|任天堂ニュースリリース(2025年4月2日)。マウス操作は同日のNintendo Switch 2 Directで公表されたもので、1月16日の初公開時には発表されていません。
- Nintendo Switchの発売日|任天堂ニュースリリース(2017年1月13日)。Wii・NINTENDO64などの発売日は任天堂公式サイトの本体・周辺機器のページによります。
- 直近の出願は出そろっていません。特許は出願から原則1年6か月後に公開されるため、2024年8月より後に出された出願には、まだ表に出ていないものがあります。
- 「任天堂」「Nintendo Switch」「Joy-Con」「Wii」は任天堂株式会社の商標です。この記事は公開データにもとづく独自の集計で、同社との提携・公認関係はありません。