特許庁の全出願データから、企業がどこに発明を寄せてきたかを読む

数え方と、数えられないもの

指標カタログの27指標すべてに共通する前提を、このページに1回だけ書きます。各指標のページにある「言えないこと」は、ここに書いた土台の上に載っています。

会社の決め方

会社は名簿から選ぶのではなく、検索式で指定します。手元のデータには異なり出願人名が 947,845件あり、どの名義を1つの会社として束ねるかが、すべての数字の分母を決めるためです。

式には次の書き方があります。

書き方意味
日東電工正規化した出願人名への部分一致
=住友化学完全一致(子会社を巻き込まない)
三菱ケミカル*ワイルドカード(前方・後方・中間一致)
id:000005821出願人識別番号。旧社名も同じ番号にまとまる
A OR B / A -B論理式。除外は式に残る

旧社名は出願人識別番号で束ねるのが最短です。番号は社名変更をまたいで変わらないため、 ソニー→ソニーグループのような改称を1本の系列にできます。グループ会社は、識別番号・ 統合識別番号・社名の接頭辞から機械が候補を出し、含めるかどうかは人が決めます。 決めた結果は検索式そのものに書き戻されるので、どの名義を含めた集計かが式の形で残ります。

名義の選び方は結果を大きく動かします。実測では、完全一致の「=パナソニック」に当たる 出願は9,385件ですが、パナソニックホールディングス(263,278件)・パナソニック IPマネジメント(59,175件)・パナソニック電工(51,052件)の名義を足すと、2005〜2024年の 集計行は15,886行から165,942行になります。10倍の差です。しかも「パナソニック株式会社」 名義の出願は2013年でほぼ止まっているため、1名義だけで描いた図は事業縮小に見えます。 このため、すべての図に「数えた名義」を添えています。

財務(EDINET)と結び付けるときの突合は、社名の完全一致だけを自動で採用します。 部分一致で決めると、日本電気硝子に日本電気を当てるような取り違えが起き、 別会社の売上が特許の隣に並んでも数字がそれらしいので気づけません。 一致しない会社は人が対応を確認するまで、財務の図を出しません。

分析の窓が1991–2024年である理由

窓の上下とも、データを実測して決めています。

下限の1991年。1990年以前の出願人レコードは約6割が名前を持たず、識別番号だけです。 旧識別番号から当時の氏名を引ける対応表を作りましたが、名前が付くのは大手2,597名義に 限られます。1社の件数推移そのものは1971年まで遡れます(実測では日東電工の 1971〜1990年が、対応表を繋ぐ前の788件から6,979件になりました)。ただし中小・個人の 名前が欠けたままなので、全国シェアのように分母が要る見方は1990年以前を描きません。

上限の2024年。理由は2つあります。第一に、出願は原則1年6か月後に公開されるため、 直近3年の件数は実際より少なく出ます。第二に、分類の付与そのものが直近年は 追いついていません。実測では、富士フイルムでIPCが1本も付いていない出願が 2022年41%・2023年49%に達しました。崩れ方は会社ごとに違う(トヨタ自動車はほぼ崩れない) ため、全社一律の年では切らず、会社ごとに崩れの開始年を検出して構成比に印を付けています。

窓の内側でも、データごとに使える範囲が違います。発明者の収録は1981年以降 (収録率99%以上)、審査官引用が年次比較に使えるのは1994〜2022年 (1991〜93年は収録率28〜33%)、財務はEDINETのAPIで取れる直近10年です。 特許は出願年(暦年)、財務は会計年度で数えるため、並べるときは必ず注記します。

分野の切り方

分野はIPCメイングループ(G02B5 のような桁)をキーにします。サブクラス(G02B)は 粗すぎて、ズームレンズと偏光板が同じ群に入ることを実測で確認したためです。

群の名前は、その群で最も多い発明の名称から採ります。分類の公式名ではありません。 実測では G03F7→平版印刷版原版、G02B5→偏光板、C09J7→粘着シート、H04N5→デジタルカメラ のように、製品として読める名前が付きます。「〜の製造方法」は作り方であって製品では ないので候補から落とします。

分野の軸として検討し、実測で却下したものが2つあります。Fタームテーマは付与率が 42.9%しかなく、1出願に複数テーマが付くため構成比の分母になりません(延べで108%に なります)。発明の名称のn-gramは、形態素解析器なしでは「ィルム」「脂組成物」のような 断片に割れて群になりません。

会社が決算で使う事業セグメントは、範囲が会社ごとに違い、数年おきに再編されるため、 横比較や長い時系列の共通軸には使いません。人がIPCとの対応表を書いた会社に限り、 二層目の軸として事業セグメント別の図を作ります。自動では対応させません。

数えられないもの

指標をどう組み合わせても見えないものがあります。引用する前に確認してください。

  • 買収による技術獲得。数えているのは対象名義の出願だけなので、会社ごと買ってきた

技術はどの指標にも現れません。富士フイルムの医薬品事業(富山化学の買収)は、 分類の共起でも、自己引用でも、発明者の移動でも見えないことを実測で確認しています

  • 出願人が挙げた引用。データに1行も入っていません(特許庁のコード表と突合済み)。

引用の指標はすべて審査官引用だけで作っています

  • 海外の引用。引用は国内のもののみで、引用先も公開特許公報に限られます

(公告公報・実用新案・外国文献への引用は接続できず落ちます)。海外からの被引用も 持っていないため、国際的な影響力は測れません

  • 直近3年の実勢。公開の遅れと分類付与の遅れで、件数も構成比も確定していません。

図では網かけや印で区別し、「近年減少」とは書きません

  • Fタームが付いていない出願。付与率42.9%のため、Fタームを使う指標(課題×解決手段)は

母集団の4割強しか見ていません

  • 明細書の本文。手元にないため、請求項や実施例の記述を根拠にした分析はできません。

パテントファミリー・PCT指定国も同様で、「どの国で権利を取ったか」は台湾・韓国・ 豪州・中国の公報から数えた近似だけです

数字を確かめる手順

数字は検証できる形で渡します。

  • 図には、その図をそのまま再現できるCSVを1本ずつ付けます。数字の出所が図と

食い違うことはありません

  • 個別の公報には公報番号を添えます。J-PlatPatで原文を確認できるので、

集計の裏にある1件ずつを当方を経由せずに検証できます

  • ファクトパックには、使った検索式・当たった出願人名義の全件・除外した名義とその理由・

同じ条件で回し直すための手順を載せます。第三者が同じ数字を再現できることを 納品の条件にしています

  • 各指標の「言えないこと」には、実測で確認したものだけを書いています。

一般論としての注意書きと、実際に踏んで測った限界は区別しています

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