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任天堂の特許、件数と1件の厚さ

知財で負けないと言われる会社の特許を、3,406件数えました。

この記事の要点

  • 2000年から2024年の特許出願は2,960件で、ゲーム会社では4番目でした。
  • 登録された特許の請求項は、真ん中にくる件で15項。日本の全出願の6項より多く書かれています。
  • 審査を頼むまでの日数は、65.5%が出願から3年の期限の直前に寄っています。

任天堂は知財の争いで負けないと言われます。『マリオカート』に似せた公道カートの会社には5,000万円。ゲームを違法にコピーする機器の業者には約9,000万円。スマホゲームのコロプラとは和解し、報道された和解金は33億円でした。

図1|任天堂が関わった知財の争い

図1|任天堂が関わった知財の争い
任天堂が関わった知財の争いの年表です。ドンキーコング(1982〜84年、勝訴)、ユリ・ゲラー(2000年、勝訴)、マジコン(2009〜13年、勝訴・約9,000万円)、マリカー(2017〜20年、勝訴確定・5,000万円)、コロプラ(2017〜21年、和解・報道33億円)、パルワールド(2024年〜、係争中)。海外ではフィリップス(英国、2014年)に敗れ、クロスライセンスで決着した例もあります。訴訟の記録は特許データに入っていないため、この図はすべて公開情報によります。

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40年分の7件のうち、6件は決着しています。負けたのは、英国でフィリップスと争った1件だけでした。

では、その武器庫はどれくらいの大きさなのか。任天堂の特許は、いちばん古い1976年のものから3,406件あります。

ゲーム会社の中での件数

図2|ゲーム会社の特許出願件数 2000〜2024年

図2|ゲーム会社の特許出願件数 2000〜2024年
2000〜2024年の特許出願件数です。コナミ6,549件、ソニー・インタラクティブエンタテインメント4,485件、バンダイナムコエンターテインメント3,694件、任天堂2,960件、セガ2,612件。ソニーグループ本体は84,201件で桁が違うため外してあります。

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2000年からの25年で2,960件です。ゲーム会社では4番目で、いちばん多いコナミの半分にも届きません。

あとから切り出す分割出願

特許は、出したあとで中身を決められます。出願のときは思いつくかぎり広く書いておき、どこまでを自分のものにするかは、あとで決めます。審査が終わっていないあいだなら、書いておいたことの中から新しい特許をあとで作れます。これを分割出願といいます。

大きな布を1枚出しておいて、あとから必要な形を切り出すようなものです。

図3|分割出願で権利を切り出すしくみ

図3|分割出願で権利を切り出すしくみ
分割出願のしくみです。①出願のときに書類へ広く書いておき、どれを権利にするかは決めない。②他社の製品が出てくる。③その製品に当たる形を、書いてあった中から切り出す。④切り出した権利の日付は元の出願日まで戻るので、あいだに出た製品より前になる。切り出せるのは審査が終わるまでのあいだだけです。任天堂の出願のうち分割出願は19.7%で、日本の全出願の7.0%より多くなっています。模式図で、時期や期間の長さは実際の比率ではありません。

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ここで効くのが出願日の扱いです。切り出した権利の出願日は、元の出願日まで遡ります。2005年の書類から2016年に切り出した権利は、2005年に出したものとして審査されます。あいだに世に出た他社の製品は、審査の材料から外れます。

切り出せるのは元の書類に書いた形の中だけで、期限は審査が終わるまでです。

1件に並ぶ請求項の数

特許の書類には請求項という項目があります。ここまでが自分のものです、と線を引く文で、1件の中にいくつも並べます。線を1本引くには、それを裏づける説明が書類になければなりません。書いてある量が多いほど、あとで切り出せる形も多くなります。

図4|1件に並ぶ請求項の数

図4|1件に並ぶ請求項の数
登録された特許の請求項数の分布です。日本の全出願は1〜5項が42.1%で最も多くなります。任天堂は1〜5項が7.1%で、16項以上が47.5%(全出願は11.5%)。中央値は任天堂15項、日本の全出願6項です。2000〜2024年の出願で、登録されたものだけを数えています。

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日本の特許は5項以下が4割を占めます。任天堂は7.1%で、16項以上が半分近くありました。請求項の数で順に並べて真ん中にくる件を見ると、任天堂は15項、日本の全出願は6項です。

審査を頼むまでの二つの山

特許は、審査を頼んで初めて審査に入ります。期限は出願から3年で、過ぎるとその出願は無かったことになります。

図5|審査を頼むまでの日数

図5|審査を頼むまでの日数
審査を頼むまでの日数の分布です。任天堂は100日以内が15.5%、期限直前の1,000〜1,100日が65.5%で、そのあいだの300〜900日は9.3%です。日本の全出願は同じ区間に25.0%いて、なだらかに分布しています。中央値は任天堂1,052日、全出願982日。期限は出願から3年(1,095日)です。出願2000〜2016年。

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任天堂の出願は2つの山に分かれます。出してすぐ頼むものが15.5%、期限の直前まで待つものが65.5%。そのあいだにいるのは9.3%で、日本全体の25.0%より薄くなっています。

期限まで待つあいだは、切り出す余地が残ります。

決めてからの速さ

任天堂は早期審査をよく使います。急いでほしいと申し出て、順番を前に出してもらう仕組みです。これに乗せると半年ほどで権利になり、乗せなければ2年近くかかります。

図6|争いで使われた特許6件の、待った時間と決めてからの時間

図6|争いで使われた特許6件の、待った時間と決めてからの時間
訴訟の対象になった特許6件について、出願から審査請求までの日数(待った時間)と、審査請求から登録までの日数(決めてからの時間)を2色の帯で並べました。4262217は待った時間が1,081日で、決めてからは315日。3734820は待った時間206日、決めてから214日で、出願から420日で権利になっています。分割出願の5595991と6271692が29日・31日で審査請求しているのは制度上の期限によるもので、判断の速さではありません。任天堂が早期審査を使う割合は8.7%で、日本の全出願の2.9%の3倍です。審査を頼んでから登録までの中央値は、早期審査で182日、使わない場合は701日でした。

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コロプラとの争いで使われた6件を並べると、出し方が分かれています。指で画面をずらしてキャラクターを動かす操作の特許は、出願から7か月足らずで審査を頼んでいます。早期審査に乗せて、1年2か月で権利になりました。出願は2004年9月、タッチパネルを積んだニンテンドーDSが発売される3か月前です。

同じ6件の中には、逆の出し方もあります。3年近く手をつけずに置き、期限の直前で審査を頼んだ1件です。

14年続いた1本の出願

2005年7月、任天堂は「通信ゲームシステム」という書類を出しました。ゲーム機同士がつながる仕組みの話です。審査を頼んだのは、期限の29日前でした。

図7|「通信ゲームシステム」から切り出された出願

図7|「通信ゲームシステム」から切り出された出願
2005年7月27日の出願を起点に、そこから切り出された9件を出願日の位置に並べた家系図です。7代まで続き、いちばん新しい枝は元の出願の14.3年後にあたります。2代目(特許5595991)と5代目(特許6271692)がコロプラとの争いで使われました。6代目は出願から8年たったいまも、まだ処分が付いていません。権利になったあとの手直しにあたる訂正審判は、この6件について8件が請求され、6件が成立、2件が取り下げられています。上に重ねた提訴・和解の日付は任天堂とコロプラの公表によります。

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そこから枝分かれが始まり、7代まで続きます。いちばん新しい枝は、元の出願の14.3年後に出ています。

このうち2本がコロプラとの争いで使われました。任天堂が訴えを起こしたのは2017年12月22日です。新しいほうの5代目は2016年12月に切り出されていて、権利になったのは提訴の3週間後、2018年1月12日でした。

提訴の3日後にあたる2017年12月25日にも、この一族の6代目が出願されています。出してから8年、この出願にはまだ処分が付いていません。

件数では測れないもの

特許の数だけを並べると、任天堂は4番目の会社です。1件に書いてある量と、審査をいつ頼むかまで見ると、形が違って見えます。

会社の特許は誰でも引けます。手順は先行技術調査を自分でやる手順にまとめました。

データ:特許庁「特許情報標準データ」「整理標準化データ」(2026年2月28日時点+週次差分)。出願人「任天堂株式会社」名義の出願3,406件(1976〜2026年)、日付は出願日。訴訟の対象になった特許6件は任天堂の公表資料により、どの特許がどの操作にあたるかは報道によります。特許データに訴訟の記録は入っていません。審査を頼むまでの日数と早期審査は、経過情報が取れた案件(任天堂95.8%)の中での集計で、出願2000〜2016年に限っています。

数え方と限界はデータについてにまとめています。

データについて