特許庁の全出願データから、企業がどこに発明を寄せてきたかを読む

パテントマップの作り方|Excelでどこまでできて、どこから外注か

パテントマップと呼ばれているものは、年次推移・出願人別・課題×手段の行列の3つに分かれます。前の2つは、J-PlatPatで母集団(数える対象の出願の集まり)を作り、その検索結果をCSVで落としてExcelのピボットテーブルで作れます。検索結果の表示は3,000件が上限、CSV出力も3,000件が上限(要約を含める場合は500件)で、出力にはメールアドレスの登録が要ります。3つ目の課題×手段の行列だけは集計では作れず、公報を1件ずつ読んで分類する作業になります。

このページでは、その手順と、手作業で件数が静かにずれる4か所を書きます。

パテントマップの3つの型

作り方で分けると3つです。必要な手間がまったく違うので、最初にどれを作るのかを決めます。

何を並べるか作るのに要るもの
年次推移出願年ごとの件数出願日だけ
出願人別会社ごとの件数、会社×出願年、会社×技術分類出願人名の名寄せ(同じ会社の表記ゆれを1つにまとめる作業)
課題×手段の行列縦に解こうとした課題、横に使った手段、交点に件数1件ずつ公報を読んで分類する作業

上の2つは集計で、母集団のCSVがあればExcelで作れます。3つ目は読解なので、件数が増えるほど時間が線形に増えます。外注の費用が跳ねるのもここです。

J-PlatPatで母集団を作り、CSVで落とす

J-PlatPat(特許情報プラットフォーム、独立行政法人 工業所有権情報・研修館が運営)は無料で、検索そのものに登録は要りません。「特許・実用新案検索」でキーワードや分類を指定して検索し、「検索結果一覧」をCSVで落とします。検索項目には全文・発明の名称・請求の範囲・明細書のほか、FI、Fターム、IPCがあります。FIとFタームは特許庁独自の技術分類、IPCは国際的な技術分類で、いずれも公報1件ごとに付けられた技術分野の番号です。

画面ごとの操作は先行技術調査を自分でやる手順に書いたものと同じです。ここでは母集団づくりに効く3点だけを見ます。

件数の上限

特許・実用新案検索では、ヒット件数が0件のときと3,000件を超えたときはエラーになり、検索結果一覧が表示されません。CSV出力の上限も3,000件です(2023年3月26日に500件から拡大。ただし特許・実用新案で要約を含めて出力する場合と、審決検索は500件まで)。

3,000件を超える母集団なら、分類や年で分けて何回かに分けて落とし、Excelで縦に積みます。J-PlatPatは大量データのダウンロードやプログラムによる自動収集を禁止しているので、分割は手作業の範囲で行います。

一覧画面の表示指定

1つの案件に公開公報と登録公報(または公告公報。かつて審査を通った出願について発行されていたもの)の両方がある場合、どちらを一覧に出すかを「最先公知優先」(先に発行された公報)と「公告・登録優先」(登録公報または公告公報)から選びます。選び方で、同じ検索式でも件数と年の分布が変わります。

どちらが初期値かは公式ヘルプに書かれていません。この手順では画面に出ている指定のまま進め、どちらで数えたかを控えておきます。

CSV出力と各種ランキング

「CSV出力」ボタンを押すと「CSV認証」画面になります。「ユーザID」と「パスワード」が要り、初回は「ご利用申請はこちら」から申請すると、登録したメールアドレスにユーザIDが届きます。出力する項目は選べません(要約を含めるかどうかだけ選べます)。

検索結果一覧の「各種ランキング」ボタンからは、「FI」「FI(メイングループ)」「出願人/権利者」の3つのランキングが見られます。前の2つは、同じFIをどの階層で束ねて数えるかが違うものです。出願人別のマップは、ここだけで用が足りることがあります。

Excelのピボットテーブルで組み立てる

落としたCSVをExcelで開いてから、次の順に作ります。

  1. 出願日の列の隣に、出願年の列を作ります(=YEAR(出願日のセル))。日付が文字列として入っている場合は、左4文字を取る(=LEFT(セル,4))ほうが確実です。
  2. 表のどこかを選んで「挿入」から「ピボットテーブル」。
  3. 行に出願年、値に文献番号の個数を置くと、年次推移ができます。
  4. 行を出願人、値を文献番号の個数に変えると、出願人別ができます。行に出願人、列に出願年を置けば、会社×年のクロス表になります。グラフにするときは上位10社ほどに絞らないと軸のラベルが読めません。

つまずきやすいのが技術分類の列です。1件の出願にはFIやIPCが複数付いていて、CSVでは1つのセルに詰め込まれています。そのまま数えると、複数のコードが並んだ文字列が1つの分類として数えられます。

「データ」タブの「区切り位置」でセルを複数の列に分割し、分割した列を下に貼り足して縦1列にしてから、ピボットテーブルにかけます。Power Query(「データの取得と変換」)が使える版なら、「列の分割」と「列のピボット解除」で同じことができます。

件数が静かにずれる4か所

パテントマップの作業は、間違えてもエラーが出ません。件数だけがずれて、グラフはそれらしい形で出てきます。手元の全件データで測ったものを挙げます。

1. 出願人名

会社名で出願を拾うのがいちばん壊れます。

  • 同じ社名でも出願人識別番号が複数あります。重複削除を社名と名義の組で行ったとき、富士フイルムが26,936件から5件になりました。件数の大きい行のほうが消えています。
  • 表記ゆれを直すつもりで長音符(ー)を削ると、「ホールディングス」が「ホルディングス」になって法人格の除去に失敗します。JFEホールディングスがJFEスチールに当たらず0件になりました。
  • 前方一致は別会社を吸い込みます。「ローム」で当てると米国のロームアンドハースが入り、その系列をたどってデュポンまで広がって2,462件が紛れ込みました。
  • 逆に、親会社の名義だけでは足りません。ある大手電機メーカーは、親会社名義だけなら2005〜2024年で15,886行ですが、系列の知財管理会社と主要子会社の名義を含めると165,942行になります。

採用した出願人名義の一覧を目で確認します。自動で正規化した結果をそのまま信じないほうが安全です。

2. 分類コードの扱い(IPCとFI)

日本の公報にはIPCとFIの両方が付いています。書式が似ているので同じものに見えますが、別々に付与されます。

全固体電池の母集団を組んだとき、分類として登録されていたのはIPCが379,077行、FIが12,304行でした。これは分類コードが付いた行の数で、出願の件数ではありません(1件の出願に分類は複数付きます)。この母集団を片方のスキームだけで判定すると、当たる出願の数が両方を見た場合の9分の1に落ちました。分類で絞るときは両方を見ます。

3. PCT国内移行の二重計上と、直近年の目減り

外国から日本に入ってくる出願(PCT国内移行)が2つの落とし穴を作ります。

1つは二重計上です。産業用ロボットの母集団263,388件を数えたとき、18,340件(7.0%)が2つの年に重複して現れました。出願番号から取った年と、国際出願日から取った年がずれるためです。年は出願日から取ります。

もう1つは直近年です。PCT経由の出願は、最初にいずれかの国の特許庁に出願した日(優先日)から30か月かけて日本に入ってくるので、新しい年ほど抜けます。同じ母集団のPCT比率は2021年の30.3%から2024年は7.4%まで落ちていました。グラフの右端が下がっていても、減ったとは限りません。

4. キーワードで母集団を切るときの注意

キーワードで母集団を作ると、その語を含む別の技術が入ります。全固体電池を「固体電解質」で当てたとき、固体電解質“型”燃料電池(SOFC)が2,158件混じりました。

逆に、語だけでは足りません。同じ母集団で、発明の名称だけでは3分の1しか取れず、分類コードだけでは名称に「全固体」とある442件が落ちました。名称と分類の両方で取って、混ざった別物を数えて外す、という順になります。

年代をまたいで分類を比べるとき

Fタームのテーマコードは途中で付け替えられています。「3C007 マニプレータ・ロボット」は「3C707 マニプレータ」に変わっており、統合せずに前期と後期を比べると、ある課題が「最近は0件で最も減った」ように見えました。統合すると177件から450件で、増えた側でした。

課題×手段の行列は、読んで分類する作業

3つ目の型だけは集計では作れません。公報を1件ずつ読んで、何を解こうとしたのか(課題)と、どうやったのか(手段)に振り分けます。

納品資料の見本に置いてある1枚が、この作業の規模を示しています。日本の特許2005〜2024年から母集団2,378件を組み、そのうち対象の部材(支持体)が主題の359件に絞り、英文抄録から課題と手段を読み取って8課題×6手段の行列にしました。課題を分類できたのは234件で、集計の母数はこの234件です。最も多い課題は追従性・伸縮の119件(51%)でした。

2,378件から234件まで落ちているのが、この作業の実態です。母集団を絞る工程と、読んでも分類できないものを外す工程で1桁以上減ります。課題と手段の区分も先に決まっておらず、読みながら作り、途中で作り直すことになります。

どこまで自分でやって、どこから外注するか

作業手元でやる外に出す目安
年次推移・上位出願人母集団が数百件までなら、J-PlatPatとExcelで足ります母集団が3,000件の上限に当たるとき
会社ごとの集計社名が1つに定まる会社なら可能です旧社名・分社・知財管理会社への移管があるとき
分野の全体像分類を1つか2つに絞れるなら可能です分類と語の両方で組まないと取りこぼすとき
課題×手段の行列数十件なら読めます数百件を読んで分類するとき

この表の右側が当方の受託範囲です。料金は、出願件数の推移と上位出願人だけを集計するお試し集計が1万円、技術分野で母集団を組む特許調査が5万円〜、任意の会社・期間で全件数えて分野構成まで図にする特許分析が8万円〜(いずれも税別、お試し集計以外は下限の金額)。対象を伺って母集団の候補と件数を出すところまでは費用をいただきません。

提供するのは集計・可視化と、公報に書かれた内容の整理です。個別の特許について権利範囲や侵害の成否を判断すること、出願書類の作成や手続の代理は行いません。調査の種類ごとの費用相場は特許調査の費用相場にまとめています。

参考

J-PlatPatの画面名・操作名と件数の上限は、次のページで2026年9月19日に確認しました。