出願前の先行技術調査は、J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)を使えば自分でできます。無料で、検索そのものに登録は要りません。定石は、キーワードで近い公報を見つけ、その公報に付いている分類コード(FI・Fターム。特許庁が公報1件ごとに付けた技術分野の番号)を拾い、その分類で検索し直す、という順です。
語だけで探すと取りこぼします。集めた文献と自分の発明を比べて新規性・進歩性を判断するのは弁理士の仕事で、無料で相談できる公的な窓口があります。このページでは、その手順と境目を書きます。
先行技術調査で分かること
調べて分かるのは、「同じことが書かれた公開済みの文献があるかどうか」です。
出願しても、出願日より前に公開されていた技術と同じなら特許になりません。出願の費用と時間を使う前にそれを確かめるのが、出願前の先行技術調査です。あわせて、近い公報の請求項の書き方から、自分の発明のどこを権利の中心に置くかを考える材料も得られます。
分からないのは、まだ公開されていない出願です。特許出願は原則として出願から1年6か月後に公開されるので、直近1年半に出された出願は誰にも見えません。「調べて出てこなかった」は「存在しない」ではありません。
J-PlatPatで調べる手順
以下は公式の操作マニュアルに出てくる画面名です。
1. キーワードで近い公報を探す
- グローバルナビゲーションで「特許・実用新案」から「特許・実用新案検索」を選びます。「選択入力」タブで進めます。
- 「テキスト検索対象」で「和文」、「文献種別」で「国内文献」を選びます。
- 「検索キーワード」の「検索項目」を選び、「キーワード」に語を入れます。検索項目には、全文、発明・考案の名称/タイトル、要約/抄録、請求の範囲、明細書、FI、Fターム、IPC、出願人/権利者などがあります。請求項(J-PlatPatの画面名では「請求の範囲」)だけを対象にすることもできます。
- 同じ欄にスペース区切りで複数の語を入れるとOR検索、別の検索項目に入れるとAND検索になります。言い換えの語(「粘着」と「感圧接着」など)は同じ欄に並べ、絞り込みの語は別の欄に入れます。
- 「検索」ボタンで「検索結果一覧」が出ます。件数が多すぎるときは「日付指定」で期間を切ります。特許・実用新案検索は、ヒット件数が3,000件を超えるとエラーになり、一覧が表示されません。
最初は「全文」で広く当てて、多すぎるなら「請求の範囲」や「発明・考案の名称/タイトル」に絞ります。名称だけに絞ると、後で書くように取りこぼしが大きくなります。
2. 近い公報からFI・Fタームを拾う
検索結果一覧で文献番号のリンクを押すと「文献表示」になります。この画面の「検索キー」ボタンを押すと、その公報に付いている最新のFIとテーマコードが一覧で出ます。FIとテーマコードはリンクになっていて、押すと分類表示の画面へ移ります。検索結果一覧のFI列からも同じように分類照会へ飛べます。
自分の発明に近いと感じた公報を何件か開いて、共通して出てくる分類コードを書き出します。これが次の検索の入口になります。
分類には、種類ごとに次の制約があります。
- Fターム:2000年以降に発行された公報には誌面に記載されています。それ以前の公報でも、付与されていれば「検索キー」ボタンで確認できます。
- IPC:国内公報のIPCは、公報が発行されてから3〜4か月後に利用できるようになります。直近に発行された公報はIPCでは引けません。
- FI:IPCの改正に関わらず全年代の公報に共通する検索キーとして使われているため、FIで検索すればIPCの版を気にせず全期間を一度に検索できます。
分類そのものも固定ではありません。Fタームはテーマの見直し(Fタームメンテナンス)が行われ、そのときは旧Fタームが付いた発行済みの公報に新Fタームを付け直す再解析が行われます。特許庁は、メンテナンスを行った直後にそのFタームを使って検索するときは注意するよう案内しています。
3. 分類の意味を確かめる
拾ったコードが何を指しているかは、グローバルナビゲーションの「特許・実用新案」から「特許・実用新案分類照会(PMGS)」で確認します。
- 「コード照会」タブで「検索対象」を「FI/ファセット」「Fターム」「IPC(最新版)」から選び、「分類」欄にコードを入れて「照会」ボタンを押すと、そのコードの説明が出ます。
- 逆に、言葉から分類を探すときは「キーワード検索」タブを使います。
4. 分類で検索し直す
PMGSの画面で「特実検索にセット」ボタンを押すと、「特許・実用新案検索」の画面に移り、「検索項目」が「FI」になった状態でコードがセットされます。
ここでキーワードを外して分類だけで検索すると、語の言い方が違うために1回目で拾えなかった公報が出てきます。件数が多すぎるときは、分類とキーワードを組み合わせて絞ります。
5. 結果を手元に残す
検索結果一覧からCSVで落とせます。「CSV出力」ボタンを押すと「CSV認証」画面になり、「ユーザID」と「パスワード」が要ります。初回は「ご利用申請はこちら」から申請すると、登録したメールアドレスにユーザIDが届きます。出力の上限は3,000件です。ただし特許・実用新案で要約を含めて出力する場合と、審決検索は500件までです。
何をどう検索したか(検索項目、語、分類、期間、ヒット件数)を残しておくと、あとで範囲を広げ直せます。
語だけの検索で起きる取りこぼし
分類までたどる手順は遠回りですが、語だけの検索は取りこぼします。手元の全件データで測った例を挙げます。
不織布の加工技術に「ネックボンド」という方法があります。この語を発明の名称に含む登録公報は0件でした。関連する分類の登録公報4.4万件について本文まで走査すると159件見つかります。名称にも要約にも書かれず、本文の中でだけ呼ばれている技術語があります。
逆に、語で広く拾うと別の技術が入ります。全固体電池を調べるつもりで「固体電解質」で当てたとき、固体電解質“型”燃料電池(SOFC)が2,158件混じりました。読む前の件数が水増しされるので、母集団を作った直後に「その語を含むが別物」を数えて外す工程が要ります。
本文に語があっても、その技術が主題とは限りません。粘着剤の明細書には「重合方法は特に限定されず、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等が挙げられる」という定型の列挙が大量にあります。「本文に1回でも出たら該当」で数えると懸濁重合が720件になりますが、本文に3回以上出るものに絞ると34件でした。
名称と分類の両方で取るのが基本で、どちらか一方だけの検索で「無かった」と判断しないほうが安全です。語と分類の取りこぼしを件数で測った例は、パテントマップの作り方に書いています。
見つけた文献と自分の発明を比べる
文献が集まったあとの作業は、性質が変わります。
集めた文献のどれかが自分の発明と同じなら新規性がなく、複数の文献を組み合わせれば容易に思いつくと判断されれば進歩性がない、というのが審査の枠組みです。この判断は、請求項をどう書くかとセットで決まります。同じ発明でも、請求項の書き方で結論が変わります。
ここから先は弁理士の仕事です。当方も含め、弁理士でない者が報酬を得てこの判断(有効性・権利範囲・侵害の成否)を行うことはできません。
無料で相談できるところ
判断の部分は、公的な窓口で無料の相談を受けられます。いずれも2026年9月19日に公式ページで確認したものです。
| 窓口 | 運営 | 内容 |
|---|---|---|
| INPIT知財総合支援窓口 | 独立行政法人 工業所有権情報・研修館 | 全国47都道府県に設置。弁理士・弁護士などの専門家が支援担当者と協業して助言。相談は無料。共通ダイヤル 0570-082100(平日9:00〜17:00) |
| 無料の知的財産相談室 | 日本弁理士会 | 出願手続、調査、鑑定、異議申立、訴訟、諸外国の制度などについて弁理士が無料で相談に応じる。各地域会で予約。鑑定・調査・明細書の作成など、内容によっては応じられない場合がある |
| J-PlatPat講習会 | 独立行政法人 工業所有権情報・研修館 | J-PlatPatの使い方の講習会。受講料無料、オンライン開催。特許・実用新案編は初級と中級がある |
| 公報閲覧室 | 独立行政法人 工業所有権情報・研修館(特許庁庁舎2階) | 先行技術調査や公報検索のための分類などについてアドバイスする指導員が常駐 |
費用の面では、中小企業や個人を対象に審査請求料・特許料(第1年分から第10年分)を軽減する制度があります。中小企業(会社・個人事業主・組合等)は2分の1、小規模企業と中小スタートアップ企業は3分の1です。2019年4月1日以降に審査請求した案件では、減免申請書と証明書類の提出は不要で、出願審査請求書の【手数料に関する特記事項】欄への記載で足ります。
自分でやる範囲と、外に出す範囲
| 作業 | 自分でやる | 外に出す目安 |
|---|---|---|
| 1つの製品・1つの工夫について近い公報を探す | J-PlatPatで足ります | — |
| 分類までたどって漏れを減らす | 分類が1つか2つに定まるなら可能です | 分類が定まらない、または広すぎて件数が読めないとき |
| 技術分野全体の公報を漏れなく集める | — | 数千件から数万件を、語と分類の両方で組む必要があるとき |
| 集めた文献と自分の発明を比べる判断 | — | 弁理士へ |
当方の受託範囲は2番目と3番目です。技術分野で母集団を組んで定義ごと納める特許調査が5万円〜(税別・下限)で、納品物は母集団の定義書・件数表・CSV・除外した語と件数の一覧です。小さく試す場合は、出願件数の推移と上位出願人だけを集計するお試し集計(1万円・税別)があります。対象を伺って母集団の候補と件数を出すところまでは費用をいただきません。
先行技術調査・無効資料調査については、候補となる文献の抽出と母集団づくりまでを行います。その文献で新規性や進歩性が否定できるかの判断、侵害予防(クリアランス)調査は行いません。出願書類の作成や特許庁への手続の代理も行いません。調査の種類ごとの費用相場は特許調査の費用相場にまとめています。
参考
いずれも2026年9月19日に確認しました。
- J-PlatPat 操作マニュアル
- キーワードで特許・実用新案を検索する【特許・実用新案検索】
- 特許・実用新案分類を照会する【特許・実用新案分類照会(PMGS)】
- ヘルプ 特許・実用新案検索(検索項目、IPCの利用開始時期)
- ヘルプ 検索結果一覧(3,000件の上限、CSV出力)
- ヘルプ 文献表示(「検索キー」ボタン)
- ヘルプ 特許・実用新案分類照会(PMGS)
- 特許庁 テーマ改廃情報(Fタームメンテナンスと再解析)
- 検索結果一覧をCSV出力する
- INPIT知財総合支援窓口
- 日本弁理士会 無料の知的財産相談室
- INPIT J-PlatPat講習会
- INPIT 公報閲覧室
- 特許庁 減免制度(2019年4月1日以降に審査請求する場合)